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抽象的な赤い形

サブストーリー

1部 ヒアシ視点

​​

彼は、生き別れとなった双子の妹「エリ」を探し続けていた。
何年も、あらゆる手段を尽くしても彼女の行方は掴めなかった。まるで、この世界のどこにも存在しないかのように。そんなある日、日本政府からある極秘任務の話が舞い込む。軍の内部調査。成功すれば、莫大な報酬が約束された。だが、ヒアシにとって重要なのは金ではない。その軍に――妹の行方を知る手がかりがあると感じたのだ。

 調査当日。彼は妖術師・城狐の力を借り、変身の術を施され、軍の研究施設で働く技術者として潜入に成功する。
数日が過ぎ、軍の戦力を探るべく、施設の一角を炎で包み狼煙を上げた。作戦の次の段階として、彼は仲間のルイと合流するため施設内の指定地点へと向かっていた。そのとき一人の隊員がしつこく声をかけてくる。何気ない問いかけ、だがその声には妙な懐かしさがあった。やがて、その人物が彼の顔を覗き込んできた。
そこにいたのは――探し求めていた妹、エリだった。

 「嘘だろ…エリ? なぜ、ここに」

 軍に所属しているはずがない。どうしてこんな場所にいるのだろうか。再会の喜びと混乱、不安と安堵が心を埋め尽くす。ようやく出た言葉は、絞り出すような声だった。

「ずっと会いたかった、エリ…」

 だが、返ってきた言葉は冷たく、自分を拒絶するものだった。

 次の瞬間、彼女は剣を抜き、彼に向かって斬りかかってきた。
妹の姿をした彼女が、自分に殺意を向けている彼の身体は思うように動かない。戦う気持ちにはなれなかった。
攻撃を避けるのが精一杯で、やがて力尽きるように地に倒れ込んだ。

 エリ――エリスは、止まらない。剣を大きく振りかぶり、とどめを刺そうとする。
その刹那、戦場に現れたのはルイだった。彼はエリに容赦なく攻撃を仕掛け、まるで報復を果たすかのように彼女を追い詰めていく。今度は、彼女の命が奪われる番だった。

 ――やめろ。

 思考よりも先に、体が動いていた。
ヒアシはエリスの前に飛び出し、身を挺してルイの一撃を受け止めた。

それが本当に妹なのかはわからない。
彼を忘れているだけかもしれない。
それでも、たとえ敵に刃を向けられても、彼女を守りたいと思った。

 彼女が誰であれ、「妹の形」をしたその人を、ヒアシは命に代えても守りたかったのだった。

1部 ヒアシ視点

​過去編

​​

 時は大正、10月31日。
 伊勢神宮の本殿は長年の風雪に耐え、内部は老朽化の極みにあった。そこに封印されていた存在双子が解かれたとき、彼らの肉体は幼き日の姿へと退行していた。灯りを求め、双子は境内を後にする。
 その瞬間、本殿は轟音とともに業火に包まれた。
 それは、厄災と忌まれた彼らが「ついに封印を破った」と、民衆に示すための仕掛けだったのだろう。

 放火犯として咎められ、半ば追放されるようにして伊勢を去った双子は、逃げるように東京行きの船へと転がり込んだ。その船は、彼らにとって“過去”を手放すための唯一の手段だった。

 数百年ぶりに見る町は、まるで異世界だった。
 見慣れぬ服、見知らぬ建物。双子は孤独を味わった。東京の街角、雨の匂いが残る石畳の上で、彼らはただ座り込んでいた。そんな彼らに声をかけたのは、一人の若い女性だった。

「ご両親は…いらっしゃらないのかしら? 今日だけと言わず、私の家に来ませんか?」

 フミコと名乗ったその女性と、その夫は、双子を家に迎え入れた。豊かな暮らしを送りながらも、子を授かれずにいた二人にとって、双子はまさに天からの贈り物だったのだろう。正式に養子として迎えられたヒアシとエリ。知らなかった「家族」というものが、確かにそこにはあった。

 しかし、すぐにフミコは病に倒れ、この世を去った。フミコがいなくなってすぐ、空気は一変する。笑顔を失った父親は、エリを地方に金で売り飛ばした。
残された家には、父とヒアシだけがいた。「家族」とは名ばかり、そこにあったのは主従にも似た関係だった。

そんな日々の中で、彼の世界に新たな人物が現れる。ルイという青年。家庭教師として雇われた彼は、従来の教師とはまるで違っていた。彼はいつも、どこかで拾った話を面白おかしく語って聞かせ、冗談ばかり言う。その優しさが、ヒアシには心地よかった。

 冬の初め、父親の一言に耐えきれず、ヒアシはルイに胸の内を明かす。その翌日、朝起きるとそこにいたのはボロボロになったルイと、ルイに暴力をふるう父。彼は父を許すわけにはいかなかった。

その夜、これから自分の命が終わるとは知らないその姿は、ヒアシの目には――哀れに映った。一歩ずつ、近づき、そして、無言のまま、剣を腹へ深く突き立てた。そしてヒアシは手をかざし、父の体を業火で包んだ。

 かつて傲慢に振る舞っていた父は、もはや叫ぶことすらできず、火の中でのたうち回るしかなかった。
 焼け焦げた喉から絞り出される罵倒の声も、ヒアシの耳にはもう届かない。

 家に火が回り、炎が唸りを上げて広がっていく。
 ヒアシは、燃え盛る炎の中、父を力任せに蹴り続けた。

 ――これが、天罰だ。

ヒアシ過去編

made by なぐも

これはシリーズ三部目の一次創作「信輝探訪」をまとめたサイトです

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