top of page
暗雲

​ストーリー

一部

1章

 エリスは特別な力を持つ少女だった。軍の精鋭部隊に配属されてからは、仲間たちと共に日々訓練に励み、ときに他愛ない話で笑い合う、穏やかな日常を送っていた。

 だが、その日常は突如として揺らぐ。ある日、基地内に侵入者が現れたという報が入り、部隊には「発見次第、排除せよ」という厳しい命令が下された。隊員たちは緊張感を漂わせながら、基地中をくまなく捜索し始めた。

 捜索開始から数日後、ついに一人の隊員が侵入者と接触。その瞬間、周囲は突如として紅蓮の炎に包まれた。同時刻、基地正面のゲートが破壊され、アラームがけたたましく鳴り響く。事態の重大さを悟った軍は、特殊部隊ヴァルガンに緊急出動を命じた。

 エリスは避難誘導を終えると、炎の中心へと駆け出す。そこで、赤い髪と瞳を持つ男と対峙した。彼は異様なオーラを纏い、どこかこの世のものではない雰囲気を放っていた。呼びかけても男は応じず、ただ炎の中に佇むばかり。エリスは苛立ちを覚え、さらに距離を詰める。

 男がエリスの顔を見た瞬間、その瞳から涙がこぼれ落ちた。そして震える声で呟く。

「ずっと会いたかった、エリ…」

 何を言っているんだこの男は。彼女は命令通り剣を抜いた。攻撃の手を緩めず斬りかかるが、男は防戦一方で、ただ避けることしかせず、なぜか一切反撃してこなかった。

 そして、ついにエリスがとどめを刺そうとしたその時――

 彼女の前に、もう一人の男が割って入った。それは、ヴァルガンが正面ゲートで対峙していた「ルイ」と名乗る男だった。ルイは赤髪の男とは違い、躊躇なく攻撃を仕掛けてきた。その動きは圧倒的で、エリスは防戦に追われ、ついには地に膝をつく。

 ルイが大きく振りかぶり、止めを刺そうとした瞬間――

 その刃が掠めたのは、エリスではなかった。間に割って入った赤髪の男が、エリスを庇ったのだ。彼の血がルイに降りかかる。

 なぜ、彼は自分を庇ったのか。
 なぜ、彼は涙を流したのか。

 答えの見えないまま、エリスはただ、目の前の現実に言葉を失っていた。

間章

間章

​ヒアシについて

軍の基地から逃れたヒアシたちは、今回の潜入で得た貴重な情報を共有していった。仲間のライが基地内に幽閉されていること。レイが、今は軍の一員として隊員として活動していること。

そしてヒアシの妹エリに酷似したエリスの存在。ヒアシは次第にひとつの疑念と向き合うことになる。真実を暴くため、さらなる行動へと踏み出していく。

​すでにヒアシが取りかかっていたのは、敵の組織がどうなっているのかを調べることだった。基地の混乱を利用して、成績優秀なジェムとレイに接近。脅すことで内通者として引き入れていた。

やがて2人から送られてきた内部情報には、信じがたい内容が記されていた。

エリスは、エリのクローンである

この軍は、エリスを兵器として利用するための組織である

エリスは月神の力を利用している

軍の計画に同意した隊員のみで構成されている​

衝撃の真実が、ついにヒアシたちの前に姿を現した。
それは人間、いや我々神を兵器として扱う非道な計画。軍は「エリス」という少女を、エリのクローンとして創り出し、感情も意思も支配下に置き戦わせていた。組織の目的は、兵器として完全に制御可能なエリスを軍事利用、抑止力とすること。そして月神の能力の利用、それはつまりエリの死を意味するものだった。ヒアシは言葉も感情も失い、しばらくの間、何もできず寝込む日々が続いた。悔しさ、無力感、そして深い喪失感――。

だが、彼の中には確かに残っていたものがあった。それは、燃えるような怒り。こんな軍が存在していい訳ない。

仲間たちと共に、この巨大な闇に立ち向かうために。暴かれた真実を、このまま黙って受け入れるわけにはいかない。

今、静かに、反撃の火蓋が切られようとしていた。

エリスについて

ヒアシたちが基地を去ったあと、エリスはその場に立ち尽くしていた。
敵であるはずのあの赤髪の男の姿が、どうしても脳裏から離れなかった。

翌日、エリスは軍医であり、同時に自分の生みの親とも言える存在――開発責任者・カエデに呼び出される。診察室で、カエデから思いもよらぬ事実を伝えられる。
あの男は、自分のクローン元である「エリ」の兄だった。

「なんてひどいことをしてしまったんだ、私は」

動揺と後悔が胸を締めつけ、軍への不信感が芽生える中彼女は気づいていた。自分には、軍の外の世界がわからない。
頼れる家族も、帰る場所も、何ひとつ持っていない。
軍こそが、唯一自分が“存在していられる場所”なのだ。

たとえそこに答えがなくとも、立ち止まることはゆるされなかった。
――彼女は決意する。この軍の中で、強く生き抜くと。

ダークスモーク
2部

2章

-Coming Soon-

made by なぐも

これはシリーズ三部目の一次創作「信輝探訪」をまとめたサイトです

bottom of page